ーーまず最初に、高校までは韓国で過ごしていたクォンさんが、
なぜ大学進学をきっかけに日本の美大で学ぼうと思ったのか、その経緯を教えていただきたいと思います。
クォンさんが一番最初に美術に触れたのはいつですか?
韓国では小学生の頃から、美術大学に入るための美術系予備校に通っていました。
でも絵を描くこと自体が好きというわけではなかったんです。
なので高校は普通科の進学校に入り、当時は大学の進学先も文系の学部を考えていましたね。
ーーいつから美大に進学しようという気持ちに変わったんですか?
高校1年生の時、美術の先生の提案で福祉施設でのアートプロジェクトに参加する機会があったんです。
そこで初めて、美術の世界って絵を描くこと以外にもあるんだということを知りました。
その時これなら、今までやっていたこと(美術の勉強)も無駄にならないかもしれない、と思い、
大学で文系の科目を学ぶよりも美大に行く方がいいのでは、と考えたことが美大進学へのきっかけです。
ーーもともと福祉には興味があったんですか?
特別興味があったわけではないです。
しかし、先生の提案でそのアートプロジェクトに関わってみた時に、
障害を持っている人たちは美術とか絵に触れる機会が全くないことに初めて気づきました。
その時、「こういう人たちに何かやってあげたい、こういう人たちのためになりたい」
という気持ちが強く沸き上がってきたんです。
ーー当時の目標、将来の夢はなんだったんですか?
そのアートプロジェクトがきっかけで、障害を持っている人たちのためにNPO団体を作りたいと思っていました。
ムサビに入ろうと思ったのも、その気持ちが強かったですね。
「ムサビでは、私が今考えているようなことをすることはできますか?」ということを、
ムサビの今の学科の教授に韓国からメールして確認をしました。
すると、私が今いる学科は幅広いので、自分次第で何でもできますよ、と言われました。
でも当時私は映像学科への受験も考えていたんです。
このようにプロジェクトを組んで参加することも大切ですが、その前に一般人の視点を変えたいと思い、韓国にいた時からドキュメンタリーをずっと撮っていたんです。
「障害者」の視点から、ということを伝えたくて、「障害者」の人たちが「私の話」を撮るというドキュメンタリーを撮っていました。
しかし、ムサビに入ってからは自分が今知っていることだけが全てではないんだな
と分かり、他にも必要なものは世の中にたくさんあることに気づけました。
これは大学に入って本当によかったことです。
また制作に関しては法律的な問題もたくさんあるし、視点を変えることは大事だけど、
それよりもまずは行動しないと何もやってあげられないということも知ることができましたね。
ーークォンさんはなぜ大学進学する時に「日本」を選んだんですか?
日本に行くことは高校2年生の頃から考えていました。
韓国は日本に比べて民主化運動や戦争等で20年30年近く遅れているけれど、
日本と韓国は法律や政策的にもやはり色々似ているところが多いです。
ヨーロッパやアメリカに行く道もあったけど、行くなら近くて似ているところも多い日本がいいなと思いました。
ーームサビ生になってからどんな活動をしていたんですか?
1年生の時は色々な経験をつんだ方がいいかなと思っていたので留学生向けフリーペーパー制作のサークルにも入っていました。
他には映画のスタッフやドキュメンタリーを撮ったりしていました。
その結果、私にはまだまだ勉強しなきゃいけないことがたくさんあるなと実感しました。
ここで満足してはだめ、と思いましたね。
日本語も、韓国にいる時に勉強して来たんですけど、
最初日本に来てすぐの頃は自分の日本語が通じないことにびっくりしました(笑)
なので、そこから一年間また日本語を勉強しました。
ーー今やっていることを教えてください。
去年まではドキュメンタリーを撮ったりしていたのですが、今年からは方向を変えていろいろなボランティアに参加することにしています。
最初は障害を持った4歳5歳くらいの子供に対して、美術の家庭教師みたいなことをしていたんです。
でも私は「もっとこの子たちにもっといいことしてあげたい」と思ったんです。
なので、家庭教師のお金はいらないから、ボランティアをやります!
と言って、友達とプロジェクトを組んで4人くらい集めて一緒に美術館に行ったり、高尾山に行って落ち葉で工作をしたりしています。
しかし、一緒に美術館に行っても上手く説明をすることができなかったり、
子供たちにとっては展示が上にありすぎて見えなかったり、苦労することが多々あります。
そういう時に美術館って障害者のためにもっと工夫してあげなきゃいけないなと思いますね。
私たちの試みに対して、子供たちはも最初は「なんであたしこんなとこ来ないといけないの?」という感じでした。
でも3ヶ月くらいたった今、みんな楽しそうに見えますね。興味を持ってくれるようになりました。
この絵どう?と聞いたらちゃんと反応してくれるようにもなって、凄くやりがいを感じています。
ボランティアは卒業するまでずっと続けていきたいですね。
ーー今の時点での将来の夢と今後やってみたいことを教えてください。
大学に入ってから去年までは、アートNPOの団体を組んでそこで活動したいという気持ちが強かったです。
というのも私は、多くの人に「障害を持っている人にもできることがたくさんありますよ」ということが伝えたいんです。
ドキュメンタリーを撮る事もその一つですね。
その手段として美術があるし、アートがあると考えています。
しかし、今ではそれだけが全てじゃないということにムサビでの生活を経て気づきました。
もっと広いところで、世界に行って、働きたい。なので、UNや国際連合を視野に入れています。
ーーそんな夢を持ったクォンさんがこれだけは負けない。と思うことを教えてください。
やりたいという気持ち、自分を信じる、ということです。
ーー最後に、12月に合同の展示「怪展」はクォンさんが企画しているんですよね?名前からして個性的で面白そうなのですが、どのようなものですか?
怪展と言うと、非現実的なイメージをしがちですが、実際は自分が普段日常生活の中で感じているものをモチーフにしています。
自分が思う日本の怪しさを絵や彫刻や映像等で表現しようという企画です!
ーーありがとうございました。これからの活躍を期待しています。
▼権・明殷(クォン・ミョンウン)
:経歴:
1990年6月11日大韓民国出身
2009年2月ソウル・ヘウォン女子高等学校卒業
2009年3月渡日後、現在武蔵野美術大学芸術文化学科に在籍中
:受賞経歴:
2009年8月 東武鉄道日光線80周年記念ロゴマーク 採用賞
2009年10月 学生ドキュメンタリー映画際(韓国) 『ママと息子の7日間 』優秀賞
:個人展:
2009年11月 ドキュメンタリー映画『ママと息子の7日間』、『名前』上映会
:その他:
2010年〜 アートプロジェクト『We are the one』企画、運営中